こんにちは、税理士のきいちゃんです。
「妻に事務を手伝ってもらっているので、月8万円払っています。これ、経費でいいですよね?」
答えを先に言います。生計を一にする家族に払った給料は、原則として経費になりません。例外は2つだけ。青色申告をしていて事前に届出書を出し、条件を満たしたときは、支払った給与を経費にできます。白色申告なら、届出は不要ですが、決まった上限額までの「事業専従者控除」しか使えません。青色で届出を出していなければ、実際にいくら払っていても、その支払額そのものは経費になりません。
この「払ってから相談に来られる」方、確定申告の時期に毎年いらっしゃるんです。順番に整理しますね。
まず大原則:家族への給料は経費にならない
所得税法には、生計を一にする配偶者やその他の親族が事業に従事して対価を受け取っても、その金額は事業主の必要経費に算入しない、という決まりがあります(所得税法第56条)。家族の間でお金を動かすだけで所得を分散できてしまうのを防ぐための規定で、通帳に振込の記録が残っていても、それだけでは経費になりません。
この原則に対する例外が、青色申告の青色事業専従者給与と、白色申告の事業専従者控除です。
青色事業専従者給与の条件(2026年8月時点)
青色申告をしている人が家族への給料を経費にするための条件は、次のとおりです。
- 青色申告者と生計を一にする配偶者その他の親族であること
- その年の12月31日現在で年齢が15歳以上であること
- その年を通じて6か月を超える期間(一定の場合は、事業に従事することができる期間の2分の1を超える期間)、その事業に専ら従事していること
- 「青色事業専従者給与に関する届出書」を提出していること
- 届出書に記載した方法・記載した金額の範囲内で支払われ、その額が労務の対価として相当と認められること
実務でいちばん引っかかるのが「専ら従事」です。ほかに勤め先があって夜だけ手伝っている、学校に通っている、といったケースは、専ら従事しているとは言いにくくなります。金額も、労務の対価として過大と判断された部分は必要経費になりません。同じ仕事を他人に頼んだらいくら払うか、を物差しにしてください。
届出書に書くのは「支給の上限」だと思ってください。月10万円と届け出て月8万円払うのは問題ありませんが、月8万円と届け出て月15万円払うと、はみ出た分は経費になりません。
届出書の期限を1日でも過ぎると、その年は使えない
「青色事業専従者給与に関する届出書」の提出期限は、次のとおりです。
- 原則:青色事業専従者給与を必要経費に算入しようとする年の3月15日まで
- その年の1月16日以後に開業した場合や、新たに専従者がいることとなった場合:その開業の日、または専従者がいることとなった日から2か月以内
ポイントは、確定申告書の提出期限ではなく給与を経費にしたい年の3月15日だということ。2026年に払う給料を経費にしたいなら、2026年3月15日までに出しておく必要がありました。2027年3月の申告時に慌てて出しても間に合いません。提出先は納税地の所轄税務署です。
結婚した、子どもが手伝い始めた、親が店に入るようになった。こういう変化があった月は、2か月以内の期限を思い出してください。
白色申告なら「事業専従者控除」
白色申告には届出書の制度がなく、代わりに事業専従者控除という決まった金額の控除になります。条件は、白色申告者と生計を一にする配偶者その他の親族であること、その年の12月31日現在で15歳以上であること、その年を通じて6か月を超える期間、事業に専ら従事していること。そして、確定申告書にこの控除を受ける旨と金額を記載することも要件です。届出は要りませんが、申告書に書き忘れたら受けられません。
- 配偶者は最高86万円、配偶者以外の親族は最高50万円
- ただし、この控除をする前の事業所得等の金額を、事業専従者の数に1を足した数で割った金額が上限(低いほうを採用)
たとえば控除前の事業所得が120万円で専従者が配偶者1人なら、120万円÷2=60万円が上限になり、控除額は86万円ではなく60万円です。86万円をそのまま使えるわけではないんですね。しっかり給料を払うなら、青色のほうが有利になりやすいです。
専従者にすると、失うものと増える手間がある
ここが見落とされがちです。青色事業専従者として給与の支払を受ける人、および白色申告者の事業専従者である人は、同一生計配偶者や扶養親族になれません。つまり配偶者控除や扶養控除は受けられなくなります。一般の控除対象扶養親族の控除額は38万円ですから、控除を捨てて給与を経費にする選択をしていることになります。
専従者給与を出す前に確認したい3つ
- 配偶者控除・扶養控除がなくなっても、事業主側の節税額が上回るか
- 給与を払う以上、源泉徴収と年末調整、給与支払報告書などの事務が発生する
- 専従者本人に所得税・住民税がかかり、金額によっては健康保険の扶養からも外れる
「経費が増える」だけを見て決めると、世帯全体では損をしていた、ということが起こります。社会保険の基準は加入先の健康保険によって違うので、直接確認してください。
記録の残し方で、経費として通るかが変わる
現金で手渡し、金額もその月しだい、給与明細もなし。これだと、労務の対価として相当だったかを説明する材料がありません。事業用の口座から本人名義の口座へ毎月決まった日に振り込み、給与明細と賃金台帳を残す。それだけで説得力が違います。
やよいの青色申告 オンライン
専従者給与は、届出どおりの金額を毎月同じように処理し続けられるかが勝負です。このソフトは家事按分や青色申告決算書の作成まで画面の案内どおりに進められるので、簿記に慣れていない方でも記録が途中で崩れにくい。届出書を出したその年からきちんと積み上げたい方に向いています。
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よくある質問
別居している親に手伝ってもらった場合は?
そもそも「生計を一にする」親族でなければ、この制限の対象外です。ただし生計を一にするかは同居・別居だけで決まるわけではないので、迷う場合は税務署か税理士に確認してください。
届出を出しましたが、今年は忙しくて手伝ってもらえませんでした
届出は出しただけでは足りず、その年を通じて6か月を超える期間、専ら従事している事実が必要です。条件を満たさない年は、その年の給与を必要経費にできません。
おわりに
家族に払う給料は、「経費にできるか」より「いつまでに届け出るか」で結果が決まってしまう論点です。逆に言えば、期限を押さえて先に手を打てば、それだけで一年分の差がつきます。
すでに家族に手伝ってもらっている方は、まず届出書を出しているかを確認してみてください。まだなら、今から準備すれば来年分には十分間に合います。要件や金額の最新の内容は、国税庁のタックスアンサーNo.2075「青色事業専従者給与と事業専従者控除」で確認してください。
お金まわりの小さな気づきは、X(@tax_kiichan)でも書いています。
※本記事は執筆時点(2026年8月)の制度にもとづく一般的な情報提供です。個別の税務判断は、税務署または税理士にご相談ください。

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