こんにちは、税理士のきいちゃんです。
「節税になると聞いたので、小規模企業共済に入ろうと思っています。入っておいて損はないですよね」
独立して2、3年目の方から、本当によく聞かれます。
掛金が全額所得控除になるのは事実です。ただし、自分の意思でやめる「任意解約」は、掛金を納めた月数が240か月(20年)未満だと、戻る額が払った掛金の合計を下回ります。12か月未満なら1円も戻りません。しかも元本割れしても、戻ってきた解約手当金には一時所得として税金がかかります。「入っておけば損はない」は成り立たない制度です。
入れるのは、従業員20人以下(業種により5人以下)の事業主・共同経営者・役員
常時使用する従業員が20人以下の個人事業主、その共同経営者、または会社の役員が入れます。卸売業・小売業と、宿泊業・娯楽業を除くサービス業は5人以下です。家族従業員、臨時の従業員、共同経営者(2人まで)は、この人数に含めません。加入時の要件なので、あとで増えても契約は続きます。
給与所得者、役員登記のない相談役・顧問、配偶者等の事業専従者は入れません。ただし事業専従者でも、事業の経営に携わる「共同経営者」の要件を満たせば、共同経営者として加入できます。資格がなかったと判明すれば、契約時にさかのぼって取り消されます。
掛金は月1,000円から7万円。全額が「小規模企業共済等掛金控除」
掛金月額は500円単位で選べ、同じ範囲で増額・減額もできます。
取り違える方が多いのですが、この掛金は生命保険料控除ではありません。「小規模企業共済等掛金控除」として、その年に払った掛金の全額が所得から引けます。生命保険料控除と違って、この控除そのものに上限額はありません。iDeCoの掛金も同じ控除です。両方に入っていれば、それぞれの拠出限度額の範囲内でどちらも全額が引けます。
掛金は事業の必要経費になりません。事業用の口座から引き落としても帳簿上は事業主貸、申告書では所得控除の欄に書きます。
中小機構の「制度のしおり」(令和8年4月改訂版)では、課税される所得金額400万円の方が掛金月額7万円(年84万円)を納めると、所得税と住民税をあわせて年241,300円の節税になる、と試算されています。ここでいう「課税される所得金額」は、売上から経費を引いた額ではなく、そこからさらに基礎控除や社会保険料控除などの所得控除を引いた後の額です。試算は令和6年10月現在の税率にもとづき、所得税は復興特別所得税を含み、住民税の均等割は5,000円としています。
所得が下がっているのに掛金だけ高いまま、という方を毎年見ます。所得がなくて納付が著しく困難なとき、災害や入院のために納付が著しく困難なときは、6か月または12か月の「掛止め」ができます。ただしその期間は、共済金にも退職所得控除にも、契約期間として算入されません。
出口は4つ。どの事由で受け取るかで、額も税金も変わる
- 共済金A…個人事業の廃止、個人事業主の死亡など。いちばん手厚い区分
- 共済金B…老齢給付(65歳以上で180か月以上納付)、会社役員の疾病・負傷・65歳以上による退任など
- 準共済金…法人成りして役員に就任しなかった場合など
- 解約手当金…任意解約、12か月以上の掛金滞納による解除など
どの区分も、納めた月数が短ければ受け取れません。共済金A・Bは6か月未満、準共済金と解約手当金は12か月未満が掛け捨てです。廃業でも、半年に満たなければ1円も戻りません。
税金の扱いも区分で変わります。一括で受け取る共済金(死亡によるものを除く)と準共済金は退職所得。他の所得と分けて計算し、退職所得控除も使えます。分割で受け取れるのは共済金A・Bが300万円以上で、共済事由が生じた時点で60歳以上のときだけ。こちらは公的年金等の雑所得です。任意解約による解約手当金は一時所得。受け取り方で税額が変わる話は退職金にかかる税金のしくみとiDeCoは一時金で受け取るのが有利、とは限りませんでも書いています。
任意解約の元本割れは、240か月がひとつの線
解約手当金は、納めた月数に応じた支給割合で決まります。
- 12か月未満…掛け捨て
- 12か月以上84か月未満…80%
- 84か月目から6か月単位で段階的に増える
- 240か月以上246か月未満…100%。以降さらに増えて最高120%
240か月に届くまでは、必ず掛金の合計を下回ります。月7万円を84か月(7年)払って任意解約した方なら、支給割合は80%台の前半。掛金合計588万円に対して解約手当金はおよそ473万円で、115万円の元本割れです。
見落としやすいのは、支給割合が掛金月額を500円ごとに区切った「掛金区分」ごとに、その納付月数で決まることです。途中で増額していると、増やした分の月数は短いままです。中小機構も、掛金月額を変更している場合は240か月以上でも掛金合計額を下回ることがある、と注記しています。加入から20年経った、というだけでは足りません。
115万円損していても、約212万円が所得に上乗せされます
任意解約で怖いのは、実はここです。一時所得は「総収入金額−収入を得るために支出した金額−特別控除額(最高50万円)」を求め、その2分の1を他の所得と合計します。ところが、この「支出した金額」に、納めてきた掛金は入りません。所得税法施行令183条2項2号ニの定めです。掛金はすでに小規模企業共済等掛金控除で全額を引いているので、二重には引かせない趣旨です。
さきほどの方なら、115万円の元本割れでも一時所得の金額は473万円−50万円=423万円。その2分の1の約212万円が事業所得などに上乗せされて課税されます。損をしたうえに、その年の税金が増えます。
なお、65歳以上での任意解約は退職所得の扱いなので、この算入できないという定めの対象外です。退職所得として、他の所得と分けて計算します。
20年が長いと感じたときに、解約より先に考えること
- 減額する…月1,000円まで下げられます。ただし無傷ではありません。掛金区分ごとの計算なので、減額した部分は減額した月で納付月数のカウントが止まります
- 掛止めを使う…上の条件に当たる場合に限られます
- 借りる…12か月以上納付し、貸付限度額が10万円以上あれば、掛金納付月数に応じて掛金の7割から9割(上限2,000万円)を借りられます。担保・保証人は不要。一般貸付けの利率は2026年8月現在で年1.5%です。利子は前払いで、貸付期間6か月・12か月の期限一括償還なら借りるときに一括、24か月・36か月・60か月の割賦償還なら借入時と返済時に6か月分ずつ払います。延滞利子は年14.6%
- 65歳まで待つ…65歳以上で180か月(15年)以上納めていれば、廃業していなくても老齢給付として共済金Bを請求できます
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掛金は、確定申告で「小規模企業共済等掛金控除」の欄に入れて初めて効きます。中小機構から届く控除証明書の額を転記する場所が分かりやすいか、青色申告決算書の作成からe-Tax送信までひと続きで進められるかを、公式サイトで確認してください。
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おわりに
小規模企業共済は、出口を決めてから入る制度です。掛金の全額が所得控除になるのは、ほかにあまりない強さ。その代わり、途中でやめた分は取り返せません。
240か月まで納めるのか、65歳と180か月で老齢給付を受けるのか。先に決めて、その年数を払い続けられる金額から始めてください。はじめに上限の7万円で申し込んで数年で苦しくなる方が、実務ではいちばん多いです。月1,000円でも、掛けた分は控除になります。
税金と暮らしのお金の話はX(tax_kiichan)でも書いています。
※本記事は執筆時点(2026年8月)の制度にもとづく一般的な情報提供です。個別の税務判断は、税務署または税理士にご相談ください。

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