退職金にかかる税金のしくみ|勤続20年で控除額が変わる理由と確定申告が必要な人

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こんにちは、税理士のきいちゃんです。

「退職金が2,000万円出るのですが、税金でどれくらい引かれますか。確定申告は必要ですか」

答えを先に書きます。退職金にかかる税金は、給与や年金とは切り離して計算されるうえに、勤続年数に応じた大きな控除があり、そのあと2分の1にしてから税率をかけます。ですから、思っているほど重くはありません。そして勤務先に「退職所得の受給に関する申告書」を出していれば、原則として確定申告は不要です。出していないと、退職金の全額に一律20.42パーセントが源泉徴収されてしまうので、確定申告で取り戻すことになります。

この申告書を出したか覚えていない方が、毎年いらっしゃるんです。以下は2026年8月時点、令和8年分の制度にもとづきます。

退職金は「退職所得」として、給与とは別に計算される

退職金は給与所得ではなく、退職所得という別の所得区分です。そして分離課税、つまりその年の給与などと合算せず、退職所得だけで税額を計算します。

給与と合算されていたら、退職した年だけ所得が跳ね上がって高い税率がまとめてかかってしまいます。長年働いた対価を一度に受け取る性質を考えて、切り離して軽く課税するしくみです。計算式はこうです。

退職所得の計算式

  1. (退職金の額 - 退職所得控除額)× 2分の1 = 課税退職所得金額
  2. 課税退職所得金額 × 税率 - 控除額 = 所得税額
  3. 所得税額 × 102.1パーセント = 実際に納める額(復興特別所得税を含む。令和9年分以後は防衛特別所得税を含む)

控除を引いて、さらに半分にしてから税率をかける。この二段構えが、退職金の税負担を小さくしています。

勤続20年で控除額の式が変わる

退職所得控除額は、原則として勤続年数で決まります。

  • 勤続20年以下:40万円 × 勤続年数(80万円に満たない場合は80万円)
  • 勤続20年超:800万円 + 70万円 ×(勤続年数 - 20年)

20年を境に、1年あたりの控除額が40万円から70万円に増えます。長く勤めた人をより手厚く、という考え方ですね。20年ちょうどなら800万円、21年目からは70万円ずつ積み上がります。

きいちゃんメモ

勤続年数に1年未満の端数があるときは、切り上げて1年と数えます。勤続10年2か月なら11年です。端数は有利な側に切り上がるので心配いりません。なお、障害者になったことが直接の原因で退職した場合は、計算した控除額に100万円が加算されます。

2分の1にできない例外もあります。役員等としての勤続年数が5年以下の人が受け取る特定役員退職手当等は、控除額を引いた金額がそのまま課税退職所得になります。役員等以外でも勤続5年以下で受け取る短期退職手当等は、控除後の金額のうち300万円を超える部分に2分の1が使えません。短期間で高額の退職金を受け取って税負担を抑える使い方を封じる決まりです。

計算例:勤続30年、退職金2,000万円のとき

数字で通してみます。役員ではない方が、勤続30年で退職金2,000万円を受け取った場合です。

  • 退職所得控除額:800万円 + 70万円 ×(30年 - 20年)= 1,500万円
  • 課税退職所得金額:(2,000万円 - 1,500万円)× 2分の1 = 250万円
  • 所得税額:250万円 × 10パーセント - 97,500円 = 152,500円
  • 復興特別所得税を含めた額:152,500円 × 102.1パーセント = 155,702円

2,000万円受け取って、所得税と復興特別所得税はあわせて約15万6千円。これに住民税25万円が加わり、合計で約40万6千円(405,702円)です。2,000万円に対して税負担は2パーセント程度。退職金の課税がどれだけ優遇されているか、伝わるでしょうか。

計算式の「102.1パーセントをかける」は、所得税額の2.1パーセントを上乗せする復興特別所得税です。退職所得にもきちんとかかります。これは令和8年度税制改正で課税期間が10年延長され、令和29年(2047年)12月31日までの措置となりました。あわせて令和9年分以後は復興特別所得税の税率が1.1パーセントに下がり、かわりに防衛特別所得税1パーセントが課されます。上乗せ分の合計2.1パーセントは変わらないので、「102.1パーセントをかける」計算は令和8年分・令和9年分とも同じです。

住民税も分離課税で、支払時に引かれている

忘れられがちなのが住民税です。退職所得の住民税も分離課税で、税率はあわせて10パーセント(市町村民税6パーセント、道府県民税4パーセント)。退職金の支払時に勤務先が特別徴収して納めてくれます。上の例なら250万円 × 10パーセント = 25万円。翌年に請求書が来るわけではないので、安心してください。

「退職所得の受給に関する申告書」を出したかどうかが分かれ目

実務でいちばん質問が多いのが、この申告書です。退職金を受け取る前に勤務先へ提出し、勤続年数などを申告するもの。出していれば、勤務先が上の手順どおりに正しい税額を計算して源泉徴収してくれます。分離課税で完結するので、原則として確定申告は必要ありません。

出していないと扱いが変わります。退職所得控除も2分の1計算も適用されず、支払金額に一律20.42パーセントをかけた額が源泉徴収されます。さきほどの例なら408万4千円。正しい税額は約15万6千円ですから、390万円以上も余計に引かれている計算です。

ただ、取り戻せます。確定申告で正しく計算し直せば、多くの場合は差額が還付されます。退職金がきわめて高額な場合は、正しい税額のほうが20.42パーセントを上回って追加で納めることもありますが、一般的な金額であれば還付になると考えてください。

確定申告したほうが得になる人

申告書を出していても、確定申告をしたほうが有利な場合があります。

申告を検討したい2つのケース

  1. 年の途中で退職して年末調整を受けていない(給与から引かれた所得税が納めすぎのことが多い)
  2. 医療費控除やふるさと納税(寄附金控除)を使いたい

ひとつ、よくある誤解も書いておきます。退職金が退職所得控除額を下回れば退職所得はゼロになりますが、余った控除枠を給与所得に回すことはできません。「控除を使い切っていないから申告すれば戻る」ということではないんです。効くのは1番目、年末調整を受けていない給与のほうを申告して精算することです。

よくある質問

退職金を年金形式で受け取る場合も退職所得ですか

いいえ。企業年金などの年金制度から年金として受け取る場合は雑所得(公的年金等)になり、他の所得と合算する総合課税です。退職所得控除は使えませんが、そのかわり公的年金等控除が使えます。どちらが有利かは金額やほかの所得によって変わるので、受け取り方が選べるなら、決める前に試算しておきましょう。なお、会社が退職一時金を数回に分けて支払う分割払いは、年金ではなく退職所得のままです。

同じ年に2か所から退職金をもらいました

原則は、あとから支払う会社が、先に支払われた退職金も含めて源泉徴収税額を計算します。ですから「退職所得の受給に関する申告書」に、先に受け取った退職金の支払者名・金額・源泉徴収税額・支払年月日・勤続年数を記入し、先の「退職所得の源泉徴収票」を添えて提出してください。これが漏れて正しく合算されていない場合は、確定申告で精算します。

退職所得控除は勤続期間の重なりを調整するので、単純に2回分もらえるわけではありません。iDeCoや企業型確定拠出年金の一時金と会社の退職金が重なるケースも同じです。なお令和8年1月1日以後にこの一時金を受け取り、かつ同日以後に退職手当等を受け取る場合は、重複期間の調整の対象が従来の「前年以前4年内」から「前年以前9年内」に広がりました。令和7年以前に一時金を受け取っていた場合は、従来どおり「前年以前4年内」です。金額が大きくなりやすいので、専門家に確認しましょう。

おわりに

押さえるべきことは3つです。勤続年数で控除額が決まり、20年を超えると1年あたり70万円に増える。控除を引いて半分にしてから課税される。申告書を出していれば手続きは終わっている。

まずは手元の源泉徴収票を見てみてください。引かれた所得税が支払金額の20.42パーセントぴったりなら、還付の可能性があります。還付の申告は5年前までさかのぼれます。長く働いた区切りのお金です。取り戻せるものは、きちんと取り戻しましょう。

お金の話は X(@tax_kiichan)でも毎日すこしずつ書いています。

※本記事は執筆時点(2026年8月)の制度にもとづく一般的な情報提供です。個別の税務判断は、税務署または税理士にご相談ください。

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