こんにちは、税理士のきいちゃんです。
「預金なら元本が減らないので、まとめて置いておけばいちばん安心ですよね?」
答えは「金額は減りませんが、価値まで守られるわけではありません」です。元本が保証されている商品は、預けた金額そのものが目減りしないことを約束してくれます。ただし、そのお金で買えるものの量まで約束してくれるわけではありません。ですから預金は必ず必要です。そのうえで、手持ちのお金の全部を預金に置き続けることには、預金ならではの別のリスクがあります。今日はそれを3つに分けて整理します。
「減らない」と「価値が変わらない」は別の話
元本が保証されているとは、通帳に並ぶ数字が約束されているという意味です。数字は動きません。動くのは、その数字で買えるものの値札のほうです。この二つを分けて考えられるようになると、預金にいくら置くかという判断がぐっと楽になります。
リスク1 物価が上がると、同じ100万円で買えるものが減る
100万円を10年間、普通預金に置いたとします。2026年8月時点の普通預金の平均金利は年0.306パーセントですから、10年で増える分はごくわずかです。ここでは分かりやすさのため、残高は100万円のままとして考えます。ここで物価が毎年2パーセントずつ上がったとすると、いま100万円で買えていた同じ買い物をするには、10年後には約122万円が必要になります。裏返せば、そのときの100万円で買えるものは、いまの感覚でおよそ82万円分にとどまります。利息と税金を考えない単純計算ですが、方向としてはこうなります。
18万円分がどこかへ消えたのではありません。値札のほうが動いただけです。それでも、10年後に払う金額が増えるという結果は同じです。預金は「金額が減らない商品」であって、「損をしない商品」ではありません。
実務でいちばん質問が多いのが「結局、預金と投資はどちらが正解ですか」というものです。どちらかを選ぶ話ではなく、置き場所を分ける話だとお伝えしています。片方に寄せた瞬間に、そちらのリスクをまるごと引き受けることになります。
リスク2 一つの銀行にまとめていると、預金保険の範囲を超える
預金保険制度、いわゆるペイオフでは、金融機関が破綻したときに、一つの金融機関ごとに、預金者一人につき元本1,000万円までと破綻日までの利息等が保護されます(2026年8月時点)。当座預金や無利息型の普通預金のように、「無利息・要求払い・決済サービスを提供できること」という三つの要件を満たす決済用預金は、この1,000万円の枠とは別に全額が保護されます。
つまり、1,000万円を大きく超えるお金を一つの銀行にまとめている場合、その超えた部分は保護の枠の外で、破綻した金融機関の財産の状況に応じて支払われます(一部が戻ってこないことがあります)。破綻がすぐ起きるという話ではありません。ただ、預金は元本が保証されているから何も考えなくていい、という理解のままだと、この線を知らずに越えてしまいます。
相続のお手伝いをしていると、亡くなった方の預金が一つの銀行にきれいに集まっていて驚くことがあります。長く付き合った銀行に寄せていくのは自然なことなのですが、金額が大きくなってきたら分けておくほうが安心です。
リスク3 使う予定のないお金まで預金に置いたままにする
ここで「だから投資を始めましょう」とは言いません。順番があります。まず生活防衛資金として、生活費の3か月から6か月分は預金で持っていてください。手取りが月25万円くらいの方なら、75万円から150万円が目安です。病気やけが、仕事が途切れたときに、真っ先に効くのはこのお金です。値動きのあるところに置いてはいけません。
問題になるのはその先です。10年、20年先まで使う予定がないお金まで預金に置き続けると、物価の上がり方に置いていかれる可能性があります。増やさなければならない、という話ではなく、選択肢を検討する余地があるのに検討していない状態がもったいない、ということです。
「元本確保型」は「元本が保証される」と同じではない
もう一つ、混同されやすい言葉があります。個人向け国債(変動10年など)は国が発行し、最低金利が設定されている商品です。適用される金利は時期によって変わりますので、ここでは数値は書きません。また、発行から1年間は原則として中途換金ができません。中途換金のときは直前2回分の利子相当額にあたる金額が差し引かれますが、償還金額は中途換金のときも額面100円につき100円で、元本そのものが減ることはありません。混同しやすいのは、次に挙げるiDeCoの「元本確保型」のほうです。
iDeCoの「元本確保型」も要注意です。定期預金だけを選んでいても、iDeCoには口座管理などの手数料が毎月かかります。金利がその手数料より小さければ、受け取るときの残高が払い込んだ合計額を下回ることがあります。商品としては元本が確保されていても、口座全体では目減りする、ということが起こり得るわけです。ここは実務でも説明が抜けやすいところです。
預金と投資は「いつ使うか」で分ける
迷ったら、金額ではなく時期で分けてください。私が最初にお聞きするのは「そのお金はいつ使いますか」です。
- 3年以内に使う予定があるお金は預金に。教育費、住宅の頭金、車の買い替えなど(あくまで目安です)
- 3年から10年のお金は、使う時期が動くかどうかで判断を分ける
- 10年以上先まで使わないお金は、増やす選択肢を考えてよい範囲
確認したい3つ
- 生活費の3か月から6か月分が、値動きのない預金にあるか
- 一つの銀行の残高が1,000万円を大きく超えていないか
- 10年以上使わないお金が、なんとなく普通預金に置かれていないか
よくある質問
銀行を分けるのが面倒です。やらないとだめですか
残高が1,000万円に届かないうちは、急いで分ける必要はありません。管理する口座が増えるほど、残高の把握や解約の手間も増えます。分けるかどうかは、金額が枠に近づいてきてから考えれば十分です。ご家族がいる場合は、名義ごとに枠が判定されるという点も覚えておいてください。ただし、他人の名義を借りた預金は保護の対象から除かれます。実質的に誰のお金かで判定されます。
いまから投資を始めるのは遅いでしょうか
遅いか早いかより、使う時期が10年以上先のお金があるかどうかで考えてください。それがないなら、いま始めなくていいのです。あるのなら、年齢よりも「値下がりした年に売らずにいられる金額か」を基準に決めるほうが現実的です。少額から始めて慣れる、という進め方も選べます。
松井証券
預金以外の置き場所をNISAで考える方は、取り扱う投資信託の種類、積立の最低金額、積立設定の変更・停止の方法を公式サイトで確認してください。元本が保証されない商品であることも、申し込む前に説明を読んでおきましょう。
おわりに
預金をやめましょう、という記事ではありません。むしろ、預金が守ってくれる範囲をはっきりさせたかったのです。減らないこと、すぐ使えること。この二つは、ほかのどの商品よりも預金が得意です。だから生活防衛資金は預金でいい。そこから先を、使う時期で少しずつ分けていけば十分です。今日できることは、通帳を開いて残高と使う予定を並べてみるだけ。それで、動かすべきお金があるのかどうかが見えてきます。
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※本記事は執筆時点(2026年8月)の制度にもとづく一般的な情報提供です。個別の判断は状況によって変わりますので、具体的な取り扱いは税務署または税理士にご確認ください。特定の金融商品の購入を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。

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