こんにちは、税理士のきいちゃんです。
「10回で6万円の回数券をすすめられました。1回あたり2,000円も安くなるなら、買ったほうが得ですよね?」
答えは「割引率だけでは決められない」です。回数券が得になるのは、使い切れる見込みと、そのサロンが続く見込みの両方がそろったときだけ。どちらか一方でも欠けると、25%引きだったはずの回数券が、都度払いより高い買い物に変わります。まずは何回目で元が取れるのかを、電卓ひとつで出してみましょう。
損益分岐は「回数券の総額 ÷ 都度払いの1回料金」で出る
例として、1回8,000円の施術と、10回で60,000円の回数券(1回あたり6,000円、25%引き)で考えます。計算はとても単純で、回数券の総額を都度払いの1回料金で割るだけです。
60,000円 ÷ 8,000円 = 7.5回。7.5回分の料金をすでに前払いしている、ということですから、8回目を受けた時点でようやく都度払いより安くなります。7回で止まった場合は損、8回以上通えば得。これが損益分岐点です。
実際に使った回数ごとに、1回あたりの単価を出すとこうなります。10回全部使えば6,000円、9回なら約6,667円、8回なら7,500円。ここまでは都度払いの8,000円を下回っています。ところが7回で通わなくなると、60,000円 ÷ 7回 = 約8,571円。1回あたり571円、都度払いより高くついたことになります。6回なら10,000円と、残り回数が増えるほど損は急に大きくなります。
つまり回数券は「25%お得な商品」ではなく、10回使い切って初めて25%引きになる商品です。8回でようやく都度払いを下回り、そこから1回使うごとに割引が効いてきます。買う前に確認すべきは割引率ではなく、自分が8回通えるかどうかです。
リスク1 通う回数の見積もりは、たいてい甘い
いちばん多い失敗が、単純に使い切れないというものです。有効期限が1年で、月1回のペースで10回使い切るつもりでも、実際には繁忙期や体調で1〜2か月飛びます。そこに引っ越し、妊娠・出産、転職、子どもの生活リズムの変化が重なると、通う前提そのものが崩れます。
買う前に、直近1年で同じサロンに実際に何回行ったかを思い出してください。予定ではなく実績で数えるのがコツです。年6回しか行けていない人が10回券を買っても、損益分岐の8回には届きません。
有効期限は「購入日から」なのか「初回利用日から」なのかで、実質的な余裕がひと月以上変わることがあります。期限切れ分の扱いも書面で確認を。
リスク2 サロンが閉店したとき、前払い分は戻りにくい
回数券は、サービスを受ける前にお金を渡す取引です。そのお店が閉店したり事業を続けられなくなったりすると、未使用分は「お店に対する返金の請求権」として残るだけになります。エステティックなどの前払い取引では、事業者が金融機関の保証といった前受金保全措置を講じていることがあり、それがあれば他の債権者に優先して弁済を受けられます。逆に保全措置がなければ優先する立場ではなく、実務的には回収がかなり難しくなります。
1回8,000円の施術を都度払いしていれば、閉店しても失うのはゼロです。10回券を現金一括で買った直後に閉店すれば、60,000円が宙に浮きます(クレジットの分割払いで買っていた場合は、残りの支払いを止められることがあります)。割引の2万円は、この前払いリスクを引き受けた対価だと考えると、判断しやすくなります。開店して間もないお店や、極端に長い期限・大量の回数をすすめてくるお店では、この点を重めに見てください。
リスク3 「元を取らなきゃ」が判断を縛る
見落とされがちなのが、お金以外のコストです。回数券を持っていると、本当は必要のない施術まで「残っているから」という理由で受けてしまいます。担当者が変わっても、もっと合うお店を見つけても、期限までは動けません。
払ってしまったお金は戻らないのに、人は前払いした分だけ選択肢を狭めてしまいます。回数券を買うということは、これから数か月から1年の「どこに行くか」をいま決めてしまうことです。そのお店に通い続けたいと心から思えているかどうかが、実は割引率より大事な判断材料になります。
契約前に確認したい5項目
回数券を買う前に、書面で確かめる5つ
- 有効期限(起算日はいつからか、延長はできるか)
- 中途解約と返金の条件(未使用分は返るか、精算単価はいくらか、手数料は引かれるか)
- 譲渡や家族利用の可否(自分が使えなくなったときの出口があるか)
- 店舗の移転・休業・担当者変更のときの扱い
- 前受金保全措置があるか(閉店・倒産のときに前払い分が守られるか)
とくに2つ目の返金条件は、口頭説明と書面が食い違いやすいところです。「途中でやめても大丈夫ですよ」と言われたら、その内容が書面のどこに書いてあるかを、その場で見せてもらってください。
なお、一定の期間と金額を超えるエステティックや美容医療などの契約は「特定継続的役務提供」にあたり、クーリング・オフや中途解約のルールが法律で定められている場合があります。対象になる条件は種類ごとに細かく決まっているので、ここで数字は断定しません。自分の契約が該当するかは、契約書面の記載と国民生活センターの案内で必ず確認してください。
回数券の代金は経費になりますか
使い切れなかった回数券を経費だと思って持ってこられる方が、確定申告の時期に毎年いらっしゃいます。まず、個人の美容のための施術は、事業との直接の関係がないため原則として経費になりません。仮に事業に必要と言える支出でも、前払いの時点で全額が経費になるわけではなく、実際にサービスを受けた分だけが対象です。買った年に60,000円を一気に落とす、という発想は基本的に通りません。
残った回数分は返金してもらえますか
契約の種類で変わります。エステティックのように特定継続的役務提供にあたる契約なら、契約期間中はいつでも理由を問わず中途解約でき、「返金しない」という特約は無効です。使った分の精算も、契約したときの単価、つまり回数券の割引後の単価が上限で、解約するときだけ割引前の正規料金で計算するという条項は認められません。事業者が請求できる違約金にも上限があります。一方、これにあたらない契約は、サロンごとの契約内容によります。自分の契約がどちらなのかは、契約書面と、消費者庁や国民生活センターの案内で確認してください。
回数券をすすめられて断りにくいときは
「今日中なら」と言われたら、その場では決めないでください。本当に良い条件なら、次回でも同じように買えるはずです。持ち帰って、直近1年の来店回数を数えてから決めるだけで、判断の精度は上がります。
おわりに
回数券そのものが悪いわけではありません。何年も通っている行きつけで、月1回のペースが生活に定着していて、期限内に確実に使い切れる。そういう人には素直に得な買い物です。危ないのは、通うペースがまだ決まらないうちに、割引率の大きさだけで決めてしまうことです。
総額を1回料金で割って、その回数を自分が通えるか考える。契約書の5項目を見る。この二つをやるだけで、前払いの失敗はほとんど防げます。次にすすめられたときは、その場で電卓を出してみてください。
日々のお金の話はX(@tax_kiichan)でも発信しています。
あわせて読みたい
※本記事は執筆時点(2026年8月)の一般的な情報提供です。金額はあくまで例であり、契約条件はサロンごとに異なります。契約前に必ず契約書面をご確認ください。

コメントを残す